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イベント・講演

2023年3月16日

【Expert Pitch #12】「エネルギー革命:バッテリーEVと再生可能エネルギーの拡大、次世代サービスのあり方 ~更に、自動運転機能との関係~」

名古屋大学 未来創造機構 客員准教授 野辺 継男氏

  • #MeetUp

自動運転やMaaSなどモビリティ分野の最前線で活躍するエキスパートをゲストに迎え、事業開発のヒントとなるインサイトをお伝えする「Expert Pitch」。今回のゲストは、自動車とITの両業界で活躍され、IT大手企業で自動運転の事業開発と政策推進を担当しながら、大学では自動運転の技術開発にも携わる、名古屋大学未来創造機構客員准教授の野辺継男氏にご講演いただきました。(2023年1月1日より客員教授)

野辺氏は、IT業界と自動車業界の両方で40年近いビジネスキャリアを持ち、自動運転技術の現場に関わりながら、国内外で開催される主要会議での講演やTV、雑誌にも数多く出演されるスペシャリストとして知られています。日本電気入社後、IBM互換PC市場を世界で立ち上げ、オンラインゲーム子会社をはじめとするベンチャーの立ち上げやCEOを歴任しています。日産自動車ではVehicle IoTやEVのバッテリーとエネルギー管理の設計に携わり、その後インテルでも、自動運転やモビリティサービス事業開発、政策推進を担当しています。

クルマのIoT化やIT化を推進してきた野辺氏が今注目しておくべき話題として取り上げたのが、自動車に使用するバッテリーと再生可能エネルギーに関することでした。温暖化ガスの増加は人間を含む生態系に大きな影響を与えていることから、世界各国が重要政策の一つとして二酸化炭素の削減に力を入れています。自動車業界もEV化などによるカーボンニュートラルの取り組みを進めており、中でもバッテリーの開発と再生可能エネルギーの活用は車の両輪のように重要視されています。

例えば、フォルクスワーゲンは2019年のニュースレポートで、ディーゼルエンジンとEVのゴルフが排出する二酸化炭素排出量を比較したグラフを公開しています。ここで、EVは走行時の排出量は少ないものの、バッテリー生産の段階で排出量が車体自体の生産時の排出量とほぼ同じであり、車体とバッテリーを合わせると出荷前の段階でディーゼル車の2倍の二酸化炭素を排出していると説明し、走行時のみならず、生産段階を含めて再生可能エネルギー化された電力を利用することが重要だと指摘しています。

ヨーロッパでは自動車における内燃機関の利用を2035年までに廃止する方針を打ち出しており、米国のバイデン大統領も2030年までに販売される新車の50%以上をEVとFCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池車)にする大統領令を発令していますが、日本国内の今後EV化をどう進めるかについては、まだ明確には言及されていないのが現状です。

野辺氏は「あらゆる技術に投資するのは、長期的に非常に重要だが、2030年には主要海外市場ではEVがマジョリティになる事は多くの海外自動車企業が認識するところであり、国内ではまだEVは少なくて良いとしても、今後の国際競争力拡大を鑑みるに、海外で売れるEVを開発・生産することは、今や喫緊の課題となっている。EV競争力の源泉にもなるバッテリー技術も、再生可能エネルギー技術も、本来日本が得意とするところでもあり、戦略的シフトは待ったなしだろう」と指摘します。

続いて野辺氏からは、業界の最前線で関わってきたBEVとも深く関わりがある「車のICT化」について、市場の動きや技術の解説も含めて詳しく解説されました。車載カメラや各種センサーなどによって車がIoT化され、クラウドに接続する情報機器と同じように端末化していくことによって、BEVは Smart EVと呼ぶべきものへと変わっていこうとしており、それによってMaaSもさらに発達していくと言います。

車のICT化は1970年代の省エネと安全性の向上にはじまり、2000年代初頭コネクテッド・カーで日本が先行し、2010年以降クラウドとDXの発展により、現在ではMaaSの考え方を発展させ、エネルギー改革として、BEVのバッテリーと再生可能エネルギーを繋げたエネルギーマネージメントに発展しつつあります。例えば、天候に左右されやすい再生可能エネルギーを補完するものとして、BEVを移動するエネルギーとして活用しようというアイデアが、2025年から2030年にかけて現実解になるだろうという話があり、こうした流れは今後のMaaS計画を立てる上でも重要になると考えられます。

また、車から収集したデータを用いて、クラウド上に実世界のデジタルツインを構築することで、クラウド内であらゆる情報を結びつけ、人・物・エネルギーの移動(モビリティ)を最適化するといった技術開発も始まっており、今後のMaaSを議論する際、エネルギー関連の最新動向に注意をはらうことがとても大事であることがわかります。その上でどのようなモビリティニーズがあり、どのようなサービスを提供できるかを考えていく基本姿勢が重要になると考えられます。

その他にもIT関連では、自動運転で重要な技術になっている4D地図の開発と運用事例についての話や、コンピューターがどのようにクルマを運転しているのかという走行アルゴリズムなどについて、業界を良く知る野辺氏ならではの視点で解説されました。ここ数年で急速に開発が進むディープラーニングの活用による画像認識や音声認識の進化は、自動車の競争力にも大きく影響していて、さらに自動車のDX化が進むのは間違いなさそうです。

ここまで話があったように車のスマート化と並行して必須になるものとして、高度な半導体とソフトウェアがあると野辺氏は説明します。それにあわせてモビリティ業界はハードウェア中心のモノづくりからソフトウェア中心にシフトする「ソフトウェア・デファインド」が進んでおり、例としてテスラは通信経由でソフトウェアを車にダウンロードすることで、これまでに考えられないような短周期で自動運転機能を改善していることなどが紹介されました。

また、回生ブレーキの効率を上げ、EVの制動距離を短くしたり、航続距離をより正確に予測するために、多くの車から収集した走行データを深層強化学習(ディープ・ラーニング)で分析したり、その結果生成されるソフトウェアで車を制御することも「ソフトウエア・デファインド」化の一例であり、車の付加価値をITによって高めることが増えています。こうしてクラウドを利用したモビリティDXと呼べる革新が進んでおり、それらはMaaSの拡大であり、「これからますますIT化が重要になり、2025年までに新しいソフトウェアとサービスを提供する車が次々と登場するでしょう。今は各社その準備段階にあり、どのような動きが始まっているのかを幅広く知っておくことがMaaSの事業戦略を考えるために重要になる」と野辺氏はコメントし、発表を締めくくりました。

また、講演の後は30分間の質疑応答の時間が設けられ、そこではエネルギー政策とも関わるグリーンスローモビリティや、車載バッテリーの研究開発に関する最新状況などについて質問がありました。たくさんの質問に対して野辺氏は、事例や興味深い情報を交えながら回答され、多くのコンソーシアム企業の皆さんに時間いっぱいまで参加いただきました。

今回のExpert Pitchはいかがでしたでしょうか? 自動運転をテーマに、車両開発からエネルギー、都市開発まで多岐にわたる野辺氏のお話から、今後のビジネス展開に向けて幅広い分野でアンテナを拡げる必要があるということが伝わってきたと思います。

MONETコンソーシアムではみなさまのビジネスを支援するべく、エキスパートの方々を通じて最新情報をお届けする企画を用意していますので、ぜひ次回開催にもご期待ください。

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