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イベント・講演

2023年4月03日

【Corporate Pitch #19】「MaaSの社会実装の加速と隠れた品質リスク ~加速するサービスサイクルに並走するソフトウェア品質へのアプローチ~」

  • #MeetUp

株式会社ベリサーブ 東日本モビリティサービス事業部 事業部長 千葉素昭 氏 
          研究企画開発部 部長 松木晋祐 氏

MONETコンソーシアム加盟企業のみなさまの共創を促進する MONET Meet UP Corporate Pitch。今回はソフトウェアの品質向上を支援する第三者検証サービスなどを専門とする株式会社ベリサーブにご登壇いただきました。

「MaaSの社会実装の加速と隠れた品質リスク〜加速するサービスサイクルに並走するソフトウェア品質へのアプローチ〜」

株式会社ベリサーブは、1983年にソフトウェアの第三者検証サービスを開始し、約40年にわたり高品質なソフトウェア検証を行う業界のパイオニアとして知られています。スマートフォンやデジカメなどの身近なデバイスから、自動車、航空機などの大型プロダクト、さらに企業システムからパッケージソフトまで多岐にわたる分野で、1,100社を超える企業の製品・システムを検証する豊富な実績があり、各サービスやプロダクトの品質向上に貢献しています。

本セッションでは、MaaSビジネスに不可欠であるソフトウェアの活用において大きな課題である、アプリやサービスの不具合に対し、品質向上をテーマにしながら、問題をどう定義し、どのような考え方で解決に取り組むべきかについて、具体策を交えながら紹介されました。

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環境の変化と利用者の増加がリリース後にさまざまな問題を引き起こす

東日本モビリティサービス事業部の千葉素昭氏は、メーカー系SIerであった前職を経て2006年にベリサーブへ入社。その後、情報家電をはじめスマートフォンや業務パッケージ、医療機器などの評価に携わり、2020年より現部門にてMaaS関連システムに関する問題解決を担当しています。

そこで多くのお客様がアプリやシステムの不具合に悩まされていることを知り、背景として「MaaSやConnectedプラットフォームが社会実装に向かい、社会課題解決を目指すものの、システムが複雑すぎてさまざまな問題が発生している」のではないかと考えました。

(資料提供:ベリサーブ)

そして、楠木建教授の著書「逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知」を参考に、現部門で携わってきた近過去の85案件を分析したところ、サービスをローンチしてプロダクトが市場に出た後に問題を引き起こし、問い合わせが多発して困っているお客様が多く、全体の30%ほどを占めていることが分かりました。

「サービスの利用者が増えただけでなく、それぞれの利用者が多様な背景を持ち、デバイスの仕様や環境の変化も加わるなど問題の切り分けが複雑化し、対応を難しくしている」と千葉氏は分析します。

もう一つ、MaaSに限らずソフトウェアの多くが、アジャイル開発やDevOps(デブオプス)と呼ばれるスタイルで開発が進められることも要因にあると指摘します。DevOpsとは、開発担当者と運用担当者が密接に連携して、柔軟でスピーディーにシステム開発を行う手法です。ある問題を修正する場合、それが再現性のあるものでエビデンスやログがあれば解決につながりますが、問題が複雑化することで情報が不足し、かえって解決を難しくしていると考えられます。

(資料提供:ベリサーブ)

「新しいサービスがリリースされるということは、新しい仕様や機能が組み込まれることなのですが、意外とその所在が不明確になる場合が多々あります。アジャイル開発では常にテストできる状態が求められ、監視も必須になるので、保守性や解析性を考慮することが求められているのを強く感じています。」

千葉氏は話の中で開発に関わる専門的な解説にも触れながら、開発と運用でしばしば生じる分断の問題についても取り上げられました。

「開発側で考えられていたことが運用に引き継がれない要因としては、リリース後に開発ベンダーが変わったり、予算や部門が分かれていたりするケースが散見されます。そうした点も隠れたリスクだと言えます。」

品質の重心が大きく変化し、内部品質の差が企業の競争力すら左右する

後半は、研究企画開発部の松木晋祐氏が「「QA4DevOpsーa.k.a 超高速で変革していく社会におけるソフトウェア品質を支える考え方」というサブタイトルで、プロダクトやサービスの中核にあるソフトウェアをどのように育てていけばよいのかという、エンジニアリングにフォーカスを当てた話になりました。

(資料提供:ベリサーブ)

現役のQA(ソフトウェア品質)エンジニアでもある松木氏は、国際規格のISO25000でモデル化された品質には「プロセスの品質」「内部品質」「外部品質」「利用時の品質」という4つの側面があると説明します。そして、最近になってそれらにおける品質の重心が驚くほど変化していると言います。

(資料提供:ベリサーブ)

「以前は、工業製品やパッケージソフトウェアはリリースした時点が最高品質で、それまでに全ての活動を行うのが当たり前でした。ところがビジネスや社会環境が変化し、お客様が使っている瞬間が最高の品質であるようチューニングしなければならない世の中になってきています。リリースしてから市場のフィードバックをいかに素早くプロダクトに取り入れられるかが企業の競争力すら左右しているのです。」

調査によると、内部品質やソフトウェアを革新する速さに投資している企業とそうではない企業では、ユーザーの期待を満たす速度で208倍の差が出るという「挽回しきれない差が生じる状況になっている」と松木氏は指摘します。そして、この差が生まれているのが内部品質であるという事実が、最近分かってきました。

健康診断と同じようにメトリクスを採ることを開発の習慣にする

続いて松木氏は内部品質についてさまざまなモデルをもとに解説し、基本的に最も重要なのは「保守性」、「変更性」「テスト可能性」の3つであると説明しました。また、ここまでの話はソフトウェアエンジニアリングの話でありながら、事業革新の速度に直結する話でもあると言います。

(資料提供:ベリサーブ)

「ソフトウェアエンジニアリングにおける内部品質を支えるのは開発の習慣であり、内部疾患を抑えるのに生活習慣を見直すのと同じように考える必要がある」と松木氏は言います。

(資料提供:ベリサーブ)

ベリサーブでは具体的な方法として、生活習慣病を健康診断で発見するのと同じように、ソフトウェア開発やチームの病を発見する手助けとなる問診票を作成しています。項目は多数あり、今回はその中から代表的なものとして4つの項目が紹介されました。

(資料提供:ベリサーブ)

「健康診断はたくさんある項目から何を測るかを医師らが決めますが、ソフトウェア開発も同じくたくさんある問診項目や計測項目の中からどのメトリクスを採り、判断するかを考える必要があります。最も良くないパターンはリリース前に1回だけ診断することで、本来であれば毎日行い、スコアの高低を判断するのが正しい運用の仕方だと考えています。」

ソフトウェアの内部品質を高め、リスクを回避するためにも、定期的にメトリクスを採ることで定量的な診断を行い、製品が素早く変化していけるのかをモニタリングした方がいいと、松木氏はアドバイスします。

「メトリクスは運用するためのもので、それを毎日採ることはDevOpsのサイクルとも非常に相性が良く、ぐるぐる回り続けるアクティビティの一つとして組み込むことで自然と習慣化されます。この辺りはスペシャリストであるQAエンジニアが詳しいので、ぜひ聞いてみてもらえればと思います。このようなモダンなQA技術を使って、ビジネスを安全に加速させていただきたいと思います。」

(資料提供:ベリサーブ)

両名の発表が終わった後のQ&Aでは、開発や運用プロセスの体制を改善する上で最も重要なポイントは何かという質問に対し「スペシャリストをちゃんと入れた上で、開発と対等の立場に置くことが絶対に必要な編成」と回答がありました。また、その他にもメトリクスを運用する時に注意すべきポイントや、スコアを判断する方法について参加者から質問があり、それらについても時間いっぱいまで回答していただきました。

MONET Meet UP Corporate Pitch、いかがでしたでしょうか? 今回はソフトウェアがテーマでしたが、その品質管理や開発においては、内製であるかパートナー協業であるかに関わらず、一緒の目標を目指せるチームビルディングをすることがとても大事ではないかと考えさせられる話でもありました。

MONET MeetUPではこれからもMaaS事業に取り組む事業者の方々にとって価値あるプログラムを開催して参りますので、引き続きみなさまのご参加をお待ちしております。

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