イベント・講演
2023年5月15日
【Expert Pitch #13】「モビリティX ~シリコンバレーで見えた2030年の自動車産業 DX、SXの誤解と本質~」
シリコンバレーD-Lab 森 俊彦氏、木村 将之氏
- #MeetUp
自動運転やMaaSなどモビリティ分野の最前線で活躍するエキスパートをゲストに迎え、事業開発のヒントとなるインサイトをお伝えする「Expert Pitch」。今回のゲストは、2030年の自動車産業を占う新キーワード『モビリティX』の著者であるシリコンバレーD-Labの森 俊彦氏と木村 将之氏をゲストスピーカーに迎え、シリコンバレーだからこそ見えてきた自動車産業の未来について、最新事例も交えながらお話いただきました。
昨年12月の出版から話題となっている『モビリティX』は、イノベーティブな新規事業をシリコンバレー発で推進(Drive)する官民連携の有志活動「シリコンバレーD-Lab」(以下、D-Lab)のメンバーによって執筆されました。発売1週間前から自動車や環境問題など複数のカテゴリーで1位を獲得しています。
著者の1人である森氏は、パナソニックホールディングス株式会社で10年以上自動車産業に携わり、モビリティ事業開発の責任者として、3年前に日本へ戻るまで5年半をシリコンバレーで過ごしています。もう1人の木村 将之氏は、スタートアップと大企業のイノベーションを支援するデロイトトーマツベンチャーサポート株式会社のシリコンバレー事務所に2015年から務めています。
D-Labの活動は同時期にシリコンバレーに駐在していた森氏と木村氏に、もう1人の著者である経済産業省の下田 裕和氏らが参加してスタートし、2016年という早い時期からCASE(Connected,Autonomous,Shared,Electric)や、MaaSの動向に着目し、モビリティを取り巻く潮流を情報発信しています。2017年に開催された経済産業省のセミナーで公開された第1弾のレポートは、半年で17万ダウンロードを超える反響を呼び、2021年には第4弾も公開(*1)されました。
*1:経済産業省のサイトより:シリコンバレーD-Lab講演https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/sokeizai/silicon2018/20180131003.html
「シリコンバレーでは2015年頃からGoogleが公道で自動運転を走らせたり、テスラやUberなどさまざまなモビリティの変革が起きはじめていましたが、日本ではEVが時々話題になる程度でした。そこに危機感を感じ自動車産業に関わる人たちが世界の情報を正しくインプットする仕組みを作る必要があると考え、賛同してくれた有志メンバーとD-Labを立ち上げました。シリコンバレーの新たな潮流の本質を正しく知ることで、携わる業界の人たちにとっての次の挑戦のキッカケにしてもらいたいと考えています。」(森氏)
そうした思いから今回は、シリコンバレーを8年以上定点観測し続けてきた活動から見えてきたことや、CES2023含め最近起きていることなど、著書にプラスアルファされたお話をいただきました。
【生活を中心にモビリティの顧客体験を変える動きがはじまっている】
本のタイトルである「モビリティX」には、モビリティの分野ではDXとSXによってビジネスモデルを根本から変革する動きが起きており、新たな顧客体験(エクスペリエンス)を創出する、異業種融合(クロス)の実現を目指すべきだというメッセージが込められています。
「シリコンバレーなどの多くのモビリティ産業プレーヤーはCASEや自動運転などの技術を個別軸で見るのではなく、それぞれがクロスして将来大きな産業(ビジネスチャンス)になると考えられています。そうした視点こそが、2030年からその先の2035年へと潮流を見通すポイントである」と森氏は言います。「すでに起きていることとしては、自動運転車やロボタクシーが実際にサンフランシスコなどの街を走り回りながら、顧客体験を変えはじめていることがあります。さらに、そこで得られたデータや声をフィードバックしながら、次の新たなビジネスを作るフェーズに入っています。」(森氏)
新しい体験を提供するという点で先行しているのはテスラで、これまでは販売した車両に問題があった場合はリコールで対応してきたところを、ソフトのアップデートで対応し、本来の機能とは関係ないような遊び心のある仕様をアプリ経由で提供するなどもしています。自動車業界も、製品を出したら終わりではなく、顧客のデータを取り続け、その使われ方を見ながらソフトウェアのアップデートでサービスを向上し続けるようになることが求められています。
DXの考え方も、今まではクラウドにつながることがDXであると誤解されている方も一部いましたが、本来は人の生活が中心にあり、クルマを使ってシームレスにさまざまな体験できることがポイントになると分析しています。
シリコンバレー企業は顧客中心という発想で既存のサービスを見直し、そのスピードも速めています。例えばUberは相乗りサービスで、指定した場所へ迎えにいくかわりに乗車ポイントまで歩いてもらうよう変更したところ、マッチングの精度が上がり、ドライバーにとっても乗客にとってもメリットが得られ、サービスの評価も向上させています。
Uberはサスティナブルな取り組みでもスピードある対応をしています。環境にやさしいハイブリッドやEVを選ぶ Uberグリーンというサービスでは、手数料を1ドルにしたところ利用が増えず、手数料を下げる代わりに待ち時間が長くなるようにして利用率を増やしました。こうした動きから、環境改善に手数料を支払う人はまだ少ないけれど、EVやテスラを運転するドライバーは安全運転でサービスが良くなるから結果的に得だと考えられていることがわかり、今後の取り組みのヒントにもなるというわけです。
【自動車業界やテックジャイアントの動きを注視する】
シリコンバレーにいる木村氏からは、現地で起きているモビリティ関連のさまざまな動きが紹介されました。
GMやBMWといった自動車メーカーは、CASEの後の世界を想定したビジネスモデルを組み立てはじめています。BMWはサーキュラーでサスティナブルな社会を実現するRE:BMW Circular Labというプラットフォームを立ち上げ、啓蒙活動やワークショップを通じて未来のブランド育成を進めています。「自分たちのブランドイメージを訴求すべき対象として、未来の顧客を考えるべきであり、どのようなタッチポイント持つ人たちと連携するのかも重要になってくる」と木村氏は言います。
テックジャイアントではAmazonが、バリューチェーン全体を効率化してきた技術を応用し、モビリティ分野の異業種融合を進め、完全自動運転車両を製造するZOOXなどに投資しています。
新しいビジネスモデルの創出では、テスラが自動運転車のオーナーが乗っていない時間帯に出稼ぎして収益を上げるという自動運転ライドシェアプラットフォームのアイデアを2019年に発表しています。テスラは他にもエネルギー企業として、バッテリーを開発したり、家の屋根に置くソーラパーネルでシェアトップのソーラシティを買収したり、電力小売事業者の免許を各地で取得するなど、垂直統合と業種横断の両方でアプローチしています。
「エネルギー産業はモビリティとも関連が大きく、米国では多くの需要を占めています。テスラはAutobidderという電力の需給を調整するAIシステムを活用した制御プラットフォームも構築していて、最適なエネルギービジネスができるのではないかと言われています。」(木村氏)
最後に森氏は「サイロ型といわれる日本企業が変革に取り組むには、1社1社が連携するだけでなく、データの共通化や共通基盤を作りながら競争と共創を分けて行うことが大事であり、どのように双方連携していくかを考えることが求められるのではないか」とコメントし、講演を締め括りました。
今回のExpert Pitch、いかがでしたでしょうか? 森氏と木村氏は、「新たな潮流に対する認識をアップデートするには、やはり現場を知る(一次情報獲得)のが一番」と言います。シリコンバレーでの動きについてもサービスの概要を知るだけでなく、利用者の状況もあわせてどのような動きがあるかを知ることが大事、ということが理解できたのではないでしょうか。
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