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導入事例

【北海道上ノ国町】AIデマンドバスで地域交通を支える上ノ国町の挑戦(行政編)

2026.10

【北海道上ノ国町】AIデマンドバスで地域交通を支える上ノ国町の挑戦(行政編)

地元の一般社団法人e-NaKaを運行主体とし、行政と地域が連携した「官民共創」によりデマンド交通を運行。
スクールバスや福祉車両を統合する「輸送資源の一元化」にも挑戦しています。

PICK UP インタビュー
  • #北海道・東北
基本情報
自治体名 北海道上ノ国町
人口、高齢化率 人口:3,921人
(令和8年8月31日現在)
高齢化率:46.8%
(令和8年8月31日現在)
公共交通 幹線交通 :該当なし
広域交通 :路線バス(江差木古内線)
生活圏交通:ハイヤー、独自運行、AIデマンドバス
導入理由 路線バス小砂子線の廃止
導入サービス AIデマンドバス 「カミGO!」
運行開始 令和7年 10 月 1 日〜 実証運行開始
運行形態 複数乗客の乗合により、予約があった停留所間をもっとも効率的なルートで運行
運行エリア 上ノ国町全域および江差ターミナル
運行台数 2台
運行事業者
コールセンター
一般社団法人 e-NaKa

導入前の課題と導入後の成果

Before(課題)

上ノ国町(かみのくにちょう)では、運転手不足や利用者減少に伴う路線バスの減便により、住民の移動手段の確保が課題となっており、デマンド交通の導入検討を進めていました。一方で、運行の担い手となる地元の交通事業者においても運転手不足が深刻化しており、デマンド交通の導入に必要な運行体制の確保が困難な状況にありました。

After(成果)

交通事業者ではなく、地元の若手有志団体が運行主体となり、白ナンバー(自家用有償旅客運送)による運行体制を構築しました。運行開始後は、小学生の利用や高齢者による温泉施設までの移動など、新たな移動習慣が生まれ、従来の路線では対応が難しかった移動ニーズを顕在化しました。また、若者の雇用機会を創出するなど、地域の足の確保と地域活性化を両立させています。

AIデマンドバス導入インタビュー(北海道上ノ国町)

過疎化や交通維持の課題は全国共通です。どこか一つの自治体が最初にリスクを背負って成功事例をつくり、それを他の自治体が真似て波及させていけば、地域交通の未来は確実に変えられます。

北海道上ノ国町役場
総務課 政策推進室 室長

谷口 博文(たにぐち ひろふみ)氏

路線バス維持の限界と、自ら決断したAIデマンド交通へのシフト

山と海に挟まれた広大な町――バスの巡回ルートが組めないL字型集落
上ノ国町は、道南(北海道南西部)の日本海側に位置する総面積547.6キロ平方メートルの約92%を山林が占める広大な地域です。 集落は日本海沿岸部と天の川流域に沿って「L字型」に細長く点在しているため、効率的なループ型の巡回ルートを構成することが難しく、従来の路線バスでは利用者のいない区間も運行する必要があり、運行効率の低さが課題となっていました。

特に、海岸線を走る生活路線バスの小砂子線(ちいさごせん)は、高校生の通学や高齢者の通院を支える町の生命線となっていました。しかし、高齢化率が約45%に達する中、同線の年間利用者数は令和7年度で6,675人(月平均500人程度)にとどまり、一部の地域住民による繰り返しの利用が中心となっていました。

>日本海沿岸部と天の川流域に細長く点在する集落「写真提供:上ノ国町役場」” style=”width: 100%; max-height: 550px; object-fit: cover;”>
<figcaption class= 日本海沿岸部と天の川流域に細長く点在する集落「写真提供:上ノ国町役場」

赤字バス路線の減便・廃止を選べない実情と、交通事業者の担い手確保が困難な現実
上ノ国町は、小砂子線を維持するため財政補填を続けていました。その背景には、実際の乗客数に対してバスのサイズや運行コストが大きすぎるという課題がありました。

「よく減便や廃止の議論がありますが、バス路線がなくなったら、通学する学生や、通院するお年寄りが困ります。乗車人数から見て明らかに大型バスはいらないサイズ感であっても、走らせる以上はその経費を補填せざるを得ないのが実情です。十数年前からこの問題を抱え、バス路線を維持するために補助金を出し続けるしかない状況が続いていました」(谷口氏)

代替策として、町内唯一の地元タクシー事業者へAIデマンド運行を委託する案も検討しましたが、タクシー事業者においても経営者やドライバーの高齢化が進んでおり、運行事業を受託するのは困難な状況でした。

「同じ公金を使うなら良いものに」― AIデマンド交通という新たな選択肢と攻めの決断
この行き詰まった状況を打ち破るきっかけとなったのが、国の規制緩和に伴う「AIデマンド交通」という新たな選択肢でした。

「AIデマンド交通」とは、決まった運行ルートと時刻表通りに運行する従来の路線バスとは異なり、利用者の予約(デマンド)に応じて、AIが最適な運行ルートや配車をリアルタイムに計算し、効率的な乗り合い運行を実現する予約制の移動サービスです。 乗客がいない状況で大型バスが固定ルートを走行するといった需要と車両サイズのミスマッチを解消し、コンパクトな車両を用いることで、住民の自宅近くから目的地までを、ドア・ツー・ドアに近い感覚で移動できる環境を実現します。

谷口氏は、この仕組みを知った瞬間の「確信」を次のように振り返ります。

「同じ公金や補助金を使って住民の足を維持するのであれば、ただ惰性で赤字補填を出し続けるのではなく、住民にとって本当に使いやすくて良いものにしなければなりません。 かつて公共交通の担当をしていた際、住民アンケートで上がっていたのは『バス停が遠くて歩けない』『運行ダイヤが自分の生活スケジュールと合わない』という切実な不満でした。

AIデマンド交通であれば、停留所を細かく配置し(上ノ国町では199箇所。 2026年9月時点)、予約に合わせた自由経路で走るため、これらの課題を根本から解消できます。 やれる手段があるなら、廃止の方向でまず段取りをしていこう、と決断しました」(谷口氏)

交通事業未経験の若手有志団体「e-NaKa(イーナカ)」との連携

「移動の足」と「若者の雇用」を同時に生み出す、町と地元の若手団体の連携
交通事業者の担い手の確保が難しい中、上ノ国町が新たな運行主体として着目したのが、空き家の再生や民泊事業を手掛ける地元の若手有志による一般社団法人「e-NaKa(イーナカ)」でした。 e-NaKaをパートナーに選定した背景には、単に交通の空白を埋めるだけではなく 、上ノ国町が進めるGX(グリーントランスフォーメーション) を軸とした新たな町の産業(洋上風力発電などの新産業誘致や空き家対策)との連携がありました。

「子育て世代を呼び込むには、第一次産業以外の稼げる場も必要です。すでに事業化が進む洋上風力発電などの新産業においても、受け皿となる地元事業体がなければ、発生する経済効果が周辺都市へ流出してしまいます。だからこそ、地域でお金を回せる若い事業体を育て、彼らの本業である空き家再生や民泊事業に交通インフラを掛け合わせ、若い世代が地元でしっかりと生活を成り立たせられる基盤を作るための投資として、この官民連携を設計したのです」(谷口氏)

交通の素人という懸念を打ち消した、法的な裏付けとITによる安全管理
交通事業の実績がないe-NaKaへの委託に、庁内や町民からは不安の声も上がりました。そこで上ノ国町は、法令上の仕組みや安全管理の考え方について丁寧に説明を積み重ねることで、議会や町民の理解を得ながら運行に向けて準備を進めました。

「交通事業者に引き受けてもらえない以上、実績がないと断っていては何も始まりません。交通の素人が勝手に運転するのではないことを、改正地域交通法に基づく『自家用有償旅客運送』の制度を活用して徹底的に説明しました。ドライバーは法定講習を経て国から正式な許可を得ており、現場でもLINEとアルコールチェッカーを連動させた毎便のIT点呼を実施しています。こうした確実な仕組みと安全管理の実態を丁寧に伝えることで、議会や町民の信頼と納得を得ることができました」(谷口氏)

医療・行政連携を見据えてMONETと連携し、二人三脚で築いた運行システム構築

運行システム事業者選定の決め手は「将来的な拡張性」
運行システムの選定にあたり、町は公募型プロポーザルを実施し、MONET Technologies(以下、MONET)がパートナーとして選定されました。

谷口氏は、当時のシステム事業者の選定について、次のように振り返ります。

「私たちは当初から、AIデマンドバスをただ走らせるだけでなく、将来的に教育(スクールバス)や福祉車両、さらには行政サービスまでを1つのモビリティシステムに統合・接続する構想を描いていました。MONETが提供する医療MaaSや行政MaaSなど、移動を起点とした広いビジョンや拡張性は上ノ国町の方向性と一致していました」

「また、実証運行の開始までに新車を確実に調達・納車できる高い信頼性も、極めてタイトなスケジュールの中で実証実験を遅滞なくスタートさせる行政側の大きな後押しとなりました」(谷口氏)

現場に寄り添ったMONETによる柔軟な運行システムの開発支援
運行システムの選定にあたり、町は公募型プロポーザルを実施し、MONET Technologies(以下、MONET)がパートナーとして選定されました。

上ノ国町の「同じ公金を使うなら、何が何でも住民のために最も有効な形にしたい」という強い思いに応えるべく、MONETの技術・開発チームは、上ノ国町と密に連携し、現場の意を取り入れながらシステム開発を進めました。例えば、朝の通勤・通学時における路線バスへの乗り継ぎ対応です。運行ダイヤが固定されていないデマンド交通の特性上、確実な予約とスムーズな乗り継ぎを両立させる必要がありました。そこで、さまざまな予約パターンを想定したシミュレーションを実施し、狙い通りの予約が成立するかを一つ一つ検証するなど、利用者のニーズに確実に応えるための細かなチューニングを行いました。

「過疎地域ならではの複雑な悩みやニーズをぶつけた時に、MONETは本当に柔軟にシステムへと取り入れてくれました。お互いに本音で噛み合う議論ができたからこそ、今となっては『MONETでよかったな』感じています 」(谷口氏)

運行開始後に顕在化した「想定外の利用者」と「新たな移動習慣」

送迎負担から解放!親の暮らしに「ゆとり」を生む「カミGO!」
路線バスの運行時にはほとんど見られなかった小学生の利用が、運行開始後の令和7年10月の3人から、12月には月間83人へと大幅に拡大しました。
背景には、親による送迎負担の解消があります。それまでは、休日の少年団活動や習い事など、保護者は早朝から身支度を整えて車を出す必要がありました。「カミGO!」の戸口送迎が口コミで広がると利用が急増し、「休日の朝にゆっくり休める」と親の送迎負担の軽減につながっています。

「路線バスではあり得ない」観光スポットへの足の確保
これまでの路線バスではルートに組み込むことが難しかった、山頂にある歴史的な観光拠点「勝山館跡」や、乗り継ぎが必要だった「道の駅もんじゅ」などにも、江差町などの停留所からAIデマンドバスで直接アクセスできるようになりました。 従来は、地元のハイヤーでしか移動が難しかった観光客の移動を、AIデマンドバスが補完することで、新たな観光の足として機能し始めています。

カミGO!と北海道夜明けの塔
カミGO!と北海道夜明けの塔

「海から山へ」の移動障壁を解消 ー高齢者の新たな「温泉通い」の習慣
これまで、海側の沿岸集落から山側の温泉施設(国民温泉保養センター等)への直行路線バスはなく、自分で車を運転できない高齢者にとって、温泉施設への移動は容易ではありませんでした。AIデマンドバスの導入により、自宅前から温泉施設まで直接移動できるようになりました。谷口氏が住民説明会で語っていた「みんなで温泉に行って、ゆっくりくつろいで帰れるよ」という光景が現実のものとなり、高齢者が近所の友人を誘い合って温泉を満喫し、リフレッシュして帰るという、日々の生活を豊かにする新たな外出習慣が定着しつつあります。

【今後の展望】スクールバスや福祉車両を統合する輸送資源一元化への挑戦

AIデマンドバス「カミGO!」の運行が軌道に乗った次のステップとして、上ノ国町は町内に存在する移動資源を束ねる構想に挑んでいます。

「スクールバスは児童を送迎する朝夕しか稼働しておらず、残りの時間は車庫で眠っています。福祉車両も同様に、送迎後は1日の大半が使われていません。こうした遊休状態の車両を一般住民向けに開放できれば、限られた輸送資源を有効活用できますし、深刻化する運転手不足のカバーにもつながります。これは絶対に進めるべきだと考えていました」(谷口氏)

この取り組みは、上ノ国町輸送リソース活用・統合調整実証事業として国土交通省の「令和8年度『交通空白』解消パイロット・プロジェクト(第1弾)」に上ノ国町が採択されました。現在、スクールバスや福祉車両をデマンドシステムへ統合する「輸送資源一元化」の実現に向け、現場での検証や調整が進行しています。町全体の車両を無駄なく生かす新しい仕組みを目指して、上ノ国町の挑戦はさらに加速しています。

令和8年度『交通空白』解消パイロット・プロジェクト(第1弾)」
出典:令和8年度『交通空白』解消パイロット・プロジェクト(第1弾)」

持続可能な地域交通に向けた「官民共創」の進め方

過疎地を抱える自治体の多くが地域交通の維持に課題を抱える中、上ノ国町もまた、さまざまな制約や課題に直面しながら、その解決策を模索してきました。しかし、上ノ国町が主体となり、地域への思いを持つ民間の若手パートナーと手を組むことで、新たな交通の仕組みづくりを実現しました。同じ地域課題に向き合う自治体に向けて、政策推進室を代表して谷口氏が大切にしている「3つのポイント」をお伺いしました。

上ノ国町役場のみなさま
インタビューに答える谷口氏
総務課 政策推進室 室長補佐 石山雄大氏(左側)、主任 小林 雅広氏(右側)

1.「自分事化」から始める:住民の移動と生活に向き合う当事者意識
「予算がない」「前例がない」「事業者がいない」といった理由で立ち止まってしまっては、現状維持すら困難になります。目の前の課題を「自分や大切な家族の困りごと」として捉え、職員自らが主体的に動くことこそがすべての出発点です

2.「成功事例の徹底模倣」から始める:先進事例を真似て最速で形にする
前例のない事業をゼロから自前で開発する必要はありません。上ノ国町も先進事例を徹底的に研究することから始めました。

「私たちが先行事例を真似たように、今度は全国の自治体の皆さまが『上ノ国モデル』を丸ごと真似て、それぞれの町に持ち帰っていただければいいと思っています。過疎化や交通維持の課題は全国共通です。どこか一つの自治体が最初にリスクを背負って成功事例をつくり、それを他の自治体が真似て波及させていけば、地域交通の未来は確実に変えられます」(谷口氏)

3.「稼げる環境づくり」から始める:若い世代が地域で生活を成り立たせられる仕組み
交通維持を単なる運行委託費用と捉えるのではなく、地元の若い事業者が地域で稼ぎ、生活を成り立たせられる雇用基盤づくりの投資として捉える視点が不可欠です。

「『人手が足りない』と言っているだけでは前へ進めません。若者が地域でやりがいを持って活動できる環境をつくり、地域全体でお金を循環させることが不可欠です。今回の取り組みも、若手有志団体の『e-NaKa』がいてくれるからこそ実現できました。AIデマンドバスの運転や宿の清掃などを兼務する『マルチワーカー』を増やし、若者が地域でしっかり稼げる環境を官民一体で創り出すことこそが、地域交通の維持だけでなく、町が未来へ生き残るための本質です」(谷口氏)

行政と民間の熱意で「地域の足」と「若者の未来」を同時に守り抜く上ノ国町の挑戦は、同じ課題に直面する全国の自治体が次の一歩を踏み出すための、大きな道しるべとなるはずです。

※掲載内容は取材当時のものです。

QA式による記事のまとめ
  • Q:. 交通事業未経験の若手有志団体「e-NaKa」をパートナーに選んだ理由と、安全面での不安をどう解消しましたか?
    A:若者の雇用創出と地域経済の循環を目指し選定しました。不安に対しては自家用有償旅客運送制度を活用し、法定講習の受講やLINEを活用したIT点呼など、厳格な安全管理を丁寧に説明して信頼を得ました。
  • Q:AIデマンドバス「カミGO!」の導入によって、地域住民の暮らしや観光面にどのような変化・効果がありましたか?
    A:戸口送迎で小学生の利用が増え親の送迎負担が軽減されたほか、路線バスで難しかった観光地への直接移動が可能に。また沿岸部から山側温泉への直行により、高齢者の新たな外出習慣が定着しました。
  • Q:MONETはどのようなサポートをしてくれるのでしょうか?
    A:路線バスへの乗り継ぎシミュレーションなど、地域の複雑なニーズに寄り添い、柔軟なシステム開発や細かな調整による伴走支援を行います。

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