導入事例
三重県鳥羽市「もう通院はあきらめる」その声をゼロに。
医師の高齢化や医師不足により、地域医療崩壊の危機に。
タクシー移動も困難な高齢者を救った「看護師同乗型・オンライン診療」
- #関東・中部
- #個宅訪問型診療
- #集団型診療
| 自治体名 | 三重県鳥羽市 |
|---|---|
| 人口/高齢化率 |
人口約1.5万人/高齢化率約42% (令和8年3月時点) |
| サービス対象範囲 | 鏡浦地区(漁村集落・急勾配な地形) |
| 診療領域 | 内科(慢性疾患) |
| 運行モデル |
個宅訪問型・集団型診療・ 医師および患者移送 |
導入前の課題と導入後の成果
医師不足により各施設を巡回で診療しているため開所時間が限られ、通院をあきらめる高齢患者が存在した。
移動が困難な患者も自宅近くで受診可能になり、通院負担が大幅に軽減。長期処方患者の診療回数も増加するなど、診療機会の拡充を実現。
医療MaaSインタビュー(三重県鳥羽市)
医療サービスは診療所に行かなければ受けることができない。そんな常識が、鳥羽市が導入した「医療MaaS」によって変わりつつある。通院から、車両を活用した自宅近くでのオンライン診療へ。「動く医療」の可能性について、元健康福祉課(現・財政課 課長補佐)の中村孝之氏と現場で活躍する看護師たちに話を伺った。
鳥羽市
元健康福祉課(現・財政課 課長補佐)
中村 孝之(なかむら たかゆき)氏
医師が動くのではなく、車両が動く。
地域医療を守るための決断
漁村集落で人口減少と高齢化が進む鳥羽市鏡浦地区。ここでは大学病院から非常勤医師の派遣を受け、1つの診療所と2つの分室を運営している。しかし、医師が各施設を巡回して診療を行うため、開所できる曜日や時間が限られていた。
「『受診できなくて困る』と通院を諦めてしまうご高齢の患者様もいらっしゃる状況でした」(中村氏)
そのような中、中村氏が目を留めたのがMONETの「医療MaaS」事業だった。遠隔診療機器を搭載した車両に看護師が乗り込み、患者のもとへ向かってオンライン診療をサポートする仕組みだ。
「これであれば、医師は移動せずに遠隔で患者様を診察でき、患者様も自宅近くで受診が可能になります。施設の立地に左右されずに診療機会を拡充できる『車両の機動力』に可能性を感じ、導入に向けた検討をスタートさせました」(中村氏)
ジチタイワークスWEB掲載記事から転載
現場の不安と患者の「デジタルへの抵抗感」を
どう乗り越えたか
導入に向けて動き出したものの、実際に車両に乗り込んで患者と接するのは看護師である。不安を払拭するため、中村氏は現場の看護師とともに先行事例である京都府宮津市へ視察に赴き、現場目線で実車両の様子を確認した。また、地元医師会と調整を重ねる中で「患者の移送も重要」という意見があがり、移送サービスも運用に組み込むことが決定する。
しかし、乗り越えなければならない壁はまだあった。患者の多くは高齢であり、「オンライン診療」という言葉やデジタルツールに対して不安や抵抗感を抱く人が少なくなかったのだ。
「そこで事前の体験会を開催し、画面越しでも普段通りに医師と会話できることを体感していただくことで、徐々に慣れてもらう工夫をしました。実際の診療では、私たちがご自宅近くまで訪問し、機器の準備やサポートをすべて行うため、患者様は車内に乗って医師と話すだけで済みます」(現場の看護師)
導入後、患者たちから寄せられたのは予想以上の喜びの声だった。
「機械なんてちんぷんかんぷんだから最初は怖かったけど、いつも診療所で顔を合わせている看護師さんが隣に座って全部やってくれるから、今はもう全く不安なんてないよ」
「画面越しでも、いつもの先生の顔を見て話せるだけで本当にホッとするんだわ。先生が遠くにいても、ちゃんと診てもらっているって実感できる」
未知のデジタル技術に対する高齢者の抵抗感は、「いつもの顔ぶれがそばにいる」という圧倒的な安心感が優しく包み込んでいった。
通院負担の劇的な軽減と、
新しい看護のあり方への手応え
MaaS車両の導入により、車内でのオンライン診療が可能になったことで、患者が診療所まで足を運ぶ回数が減り、通院の負担は大幅に軽減された。通院負担が理由で長期処方を行っていた患者の診療回数も増加している。
「前は少ないバスの時間に合わせて準備して、足を引きずりながら坂道を歩いて…病院に着くころにはヘトヘトで、途中で転ばないかいつも怖かった。でも今は、家のすぐ近くまで車が来てくれる。遠くまで行かなくて済むなんて、まるで夢みたいに楽になったよ」 と、ある高齢患者は目を潤ませて語る。
さらに、移送サービスを組み合わせることで、最寄りの診療所が閉まっている時間帯でも、同地区内で開いている別の診療所へ通えるようになった。
「診療所が閉まっている曜日でもちゃんと診てもらえるなんて、こんなに心強いことはない。家族に車を出してと頼む申し訳なさもなくなって、これならずっとこの町で暮らしていけるね」と、移動の苦痛からの解放は、住民の心に大きな希望の灯りをともしている。
現場の看護師にとっても、このプロジェクトは大きな意味を持っている。
「全国的にも先駆けとなる事業に携われることに大きなやりがいを感じています。医師が離れた場所で診療を行い、私たちが患者様のそばでバイタルサインの測定や聴診などを行って遠隔診療を補助する『D to P with N』という新しい看護のあり方に、確かな手応えを感じています」(現場の看護師)
今後の展望
~「動く医療」でさらなる住民の利便性向上へ~
これまで、診療所という「施設」を設置して患者を迎えてきた鳥羽市。しかし、医療MaaSを活用し、移動が困難な高齢者へ「医療を届ける」ことができたのは非常に有意義な成果だった。人口減少や地方財政が厳しくなる中で、テクノロジーと移動を組み合わせて地域医療を維持する仕組みを構築したことは、大きな意義を持っている。
「今後は、保健師による保健指導や歯科健診など、車両の多角的な活用も検討しています。患者様が住み慣れた地域で最期まで安心して暮らせるように、『動く医療』を通じてさらなる利便性向上と医療MaaSの可能性を探求していきたいです」(中村氏)
地域課題に向き合い続ける鳥羽市の挑戦は、これからも続いていく。
- 医師不足と通院困難の解消: 診療所の開所時間が限られ通院を諦める高齢者がいた鳥羽市において、看護師が同乗する「医療MaaS車両」を活用したオンライン診療を導入した。
- 現場の不安とデジタルへの抵抗感を払拭: 先行自治体への視察や、高齢患者向けの事前の「オンライン診療体験会」を実施することで、現場と患者双方の不安を取り除きスムーズな運用を実現した。
- 通院負担の軽減と新しい看護の形: 自宅近くでの受診が可能になり患者の負担が大幅に軽減されたほか、看護師が医師を遠隔で補助する「D to P with N」の実践が、医療従事者のやりがいにもつながっている。
- 車両の多角的な活用へ: 今後は保健指導や歯科健診などへ車両の用途を広げ、移動とテクノロジーを組み合わせた持続可能な地域医療の維持を目指している。